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離職防止とは|原因や早期兆候の見分け方・有効な10の施策を解説

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離職防止は、採用コストの削減や組織力の維持に直結する人事課題です。

「なぜ社員が辞めるのかわからない」「対策を打っても離職が続く」といった悩みを抱える人事担当者や経営者の方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、離職の主な原因から離職兆候のサイン、有効な施策、対策を怠るリスクについて詳しく解説します。

離職防止とは

離職防止とは、退職を引き止めるだけの取り組みではありません。社員が自然に「この会社で働き続けたい」と感じられる職場環境に整えることが、本来の目的です。

採用費や教育コストの観点からも、離職防止は企業にとって見逃せない人事施策です。一人の社員を採用・育成するコストは、年収の1〜2倍に相当するとも言われており、離職が続くほど経営への負担は大きくなります。

組織力の維持という面でも、社員の定着は欠かせません。従業員一人ひとりの状態を日頃から可視化し、不満や悩みが深刻化する前に早期対応できる体制を整えることが求められます。

離職してしまう主な原因

厚生労働省の調査によると、転職入職者が前職を辞めた理由として、給料・労働条件・人間関係・会社の将来性への不安などが上位に挙げられています。

令和6年1年間の転職入職者が前職を辞めた理由をみると、男性は「その他の個人的理由」20.2%、「その他の理由(出向等を含む)」13.5%を除くと「定年・契約期間の満了」14.1%が最も多く、次いで「給料等収入が少なかった」10.1%となっている。女性は「その他の個人的理由」24.3%を除くと「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.8%が最も多く、次いで「職場の人間関係が好ましくなかった」11.7%となっている。

引用:厚生労働省

離職は個人の都合だけでなく、職場環境に起因するケースが少なくありません。自社の改善点を見つけるためにも、主な原因を一つずつ確認していきましょう。

職場の人間関係が好ましくなかった

職場の人間関係が原因で離職を考える社員は、少なくありません。

上司や同僚との関係が悪化すると、日常的な相談もしづらくなるからです。社風に馴染めない状態が続けば、孤立感や組織への不信感が少しずつ積み重なります。

特に、以下のような状況が重なると離職リスクが高まりやすいです。

  • 上司からの一方的な指示が多く意見を言いにくい
  • 同僚との情報共有がほとんどない
  • チームの雰囲気が閉鎖的で新しい意見が通りにくい
  • 社内の人間関係トラブルが日常化している

業務内容や給料に不満がなくても、人間関係や組織文化への違和感が積み重なることで、離職を決断するケースは珍しくありません。

「毎日職場に行くのがつらい」という感情がやりがいを上回ったときに、社員は静かに退職を決意します。

給料等収入が少ない

給料への不満は、社員が離職を考えるきっかけになりやすい問題です。

国税庁の「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、2024年の日本の平均年収は478万円でした。

1年を通じて勤務した給与所得者については、次のとおりである。

(1) 給与所得者数は、5,137万人(対前年比1.2%増、60万人の増加)で、その平均給与は478万円(同3.9%増、180千円の増加)となっている。

引用:国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」

自社の水準が同業他社を大きく下回る場合は、社員が転職市場へ目を向けるのは自然な流れです。

以下のような状況が続くと、収入面への不満が蓄積しやすくなります。

  • 業務量や責任の重さに給料が見合っていない
  • 昇給の基準が不透明で将来の見通しが立たない
  • 頑張っても評価に反映されないと感じる

給料は、自分の仕事がどれだけ認められているかを測る一つの指標でもあります。

「評価されていない」という感覚と生活面の不安が重なったときに、転職への意欲は一気に高まっていきます。収入面の改善は、離職防止においても優先度の高い課題です。

労働時間・休日等の労働条件が悪い

労働時間や休日などの条件の悪さは、社員の心身に深刻な負担をかけます。長時間労働や休日出勤が常態化すると、睡眠不足や慢性的な疲労が蓄積していくからです。

有給休暇を取りづらい雰囲気が続けば、プライベートとの両立が難しくなります。勤務時間が不規則な職場では、生活リズムが乱れることも珍しくありません。

働くほど消耗する環境では、仕事へのモチベーションを保つことが難しくなります。「頑張っても消耗するだけ」という気持ちが芽生えれば、離職の決断は現実味を帯びてくるでしょう。

また、労働基準法では、以下のように定められています。

労働基準法では、労働時間は原則として、1⽇8時間・1週40時間以内とされています。

引用:厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」

離職のリスクは法律の範囲内でも、社員が疲弊を感じていれば高まると考えられます。労働条件の改善は、社員の定着に直結する重要な取り組みです。

仕事内容に興味が持てない

仕事内容への興味が持てない状態は、離職リスクを高める要因の一つです。入社前の期待と実際の業務にギャップがあると、モチベーションは下がりやすいです。

以下のような状況が重なると、モチベーションの低下が加速します。

  • 単調な作業が続き成長を感じられない
  • 適性やスキルを活かせる場面がない
  • キャリアの方向性と業務内容がかみ合っていない

人は「自分が成長している」と感じられる仕事に意欲を持ちやすくなります。反対に、やりがいを見出せない日々が続くと、「この会社にいても自分のキャリアが積み上がらない」という焦りが生まれるのです。

適性や希望するキャリアと業務内容のずれが大きいほど、離職を検討するタイミングは早まる傾向にあります。業務アサインや配置転換の工夫が、定着率の改善につながるでしょう。

会社の将来性に不安がある

会社の将来性への不安は、社員が離職を考える大きなきっかけになります。厚生労働省の令和5年の調査でも、前職を辞めた理由として「会社の将来が不安だった」が挙げられています。

業績の悪化や経営方針の不透明さが続けば、社員は自分のキャリアや生活への影響をより真剣に考え始めるのです。

特に、成長機会が少ない職場では「ここにいても将来が描けない」という感覚が芽生えやすくなります。

昇進の見通しが立たない、スキルを磨く機会がない、会社の方向性が見えないといった状況が重なると、優秀な人材ほど早期に転職を決断します。

将来への不安は、日々の業務へのモチベーションにも影響を及ぼすでしょう。会社の現状と将来ビジョンを社員に伝え続けることが、離職防止においても重要な取り組みといえます。

離職する可能性がある社員の特徴

離職を考え始めた社員は、日々の行動や仕事への向き合い方に少しずつ変化が現れやすくなります。ただし、本人が離職意向を口にするケースはほとんどなく、上司や周囲が気づかないまま退職を切り出されることも少なくありません。

早期に兆候をつかむ上でも、職場に現れやすい代表的な3つのサインを確認しておきましょう。

業務上のコミュニケーションが減る

業務上のコミュニケーションが減ってきたときは、従業員が離職を考え始めている可能性があります。

報連相が減る、会議での発言が少なくなる、チャットの返信が事務的になるといった変化は、心理的な距離が広がっているサインです。

「最近元気がない」と感じた程度で済ませると、退職届を受け取ることになりかねません。忙しさだと判断せず、変化に気づいた段階で背景を確認することが大切です。

1on1(マネージャーとメンバーが行う定期的な1対1の面談)や日常の声かけが、社員が抱える不満や悩みを表面化させる機会になります。

コミュニケーションの変化は、離職意向が固まる前に組織が介入できるタイミングです。管理職が日頃から部下の様子に目を向ける習慣を持つことが、早期対応につながります。

有給休暇の取り方が変わる

有給休暇の取り方に変化が現れたときは、離職を検討しているサインである可能性があります。

特に、以下のような変化が見られる場合は注意が必要です。

  • 有給をほとんど取らなかった社員が急に連続取得するようになった
  • 平日に不定期な休みが増え、転職活動や面接を想定させる動きがある
  • 休暇前後の業務引き継ぎへの関心が薄れている

有給休暇の取得自体は労働者の権利であり、休むことを問題視してはいけません。

取得パターンの「変化」に気づき、その背景にある不満や働き方の変化を把握しようとすることが大切です。変化に気づいたら「最近どうですか」と自然に声をかけることから始めてみましょう。

日常的な関わりを通して社員が本音を話しやすい関係性を築いていくことが、離職の早期察知につながります。

新規案件や長期プロジェクトへの参加が消極的になる

新規案件や長期プロジェクトへの参加に消極的になってきた社員は、会社に長く残る意思が薄れているサインの可能性があります。

以前は積極的に手を挙げていた社員が、新しい業務の打診を断るようになったり、責任ある役割を避ける言動が増えたりする場合は注意が必要です。

長期のコミットメントを避けるのは、「どうせ辞めるなら関わっても意味がない」という心理が背景にあります。

加えて、今後のキャリアを社外で考え始めている場合は、社内でのポジションや評価への関心も薄れていきます。仕事への関与度が下がること自体が、離職意向の表れと捉えられるでしょう。

社員の変化を見逃さないためにも、プロジェクトアサインや業務相談の場で、社員のキャリア希望や意欲を定期的に確認する機会を設けることが大切です。

社員の離職防止に有効な10の施策

離職防止には評価制度の見直しや職場環境の整備、コミュニケーションの改善など、多角的なアプローチが必要です。

一つの施策ですべてを解決しようとするのではなく、自社が抱える課題に合わせた複数の取り組みを組み合わせることが重要です。

ここでは、取り組みやすく高い効果も期待できる10の施策を紹介します。

評価・報酬制度をより納得感があるものに変える

評価・報酬制度への不満は、離職につながる原因の一つです。

評価基準が曖昧だったり、評価にばらつきがあったりすると、社員は「頑張っても正当に評価されない」という不信感を抱きやすくなります。

納得感のある制度に見直すためには、以下のような取り組みが有効です。

  • 評価基準を具体的な行動・成果レベルで明確にする
  • 昇給・昇格の条件を社員に開示する
  • 定期的なフィードバックの機会を設け、評価の根拠を伝える

評価制度の透明化は、社員が「自分の努力が正しく見られている」と感じるための土台になります。

公平性のある仕組みを整えることで、社員の納得感と意欲を高め、離職リスクの低減にもつながるでしょう。

管理職のマネジメント能力を向上させる

管理職のマネジメントスキル向上は、社員の離職防止につながることがあります。

部下への声かけが少ない、感情的な指導をする、業務量の偏りを放置するといった行動は、社員の不満や疲弊を招きやすくなります。

人材管理の観点からも、管理職の行動が社員のエンゲージメントに直接影響することを意識しておく必要があるでしょう。

定期的な1on1やハラスメント防止の意識、心理的安全性のある職場関係づくりが求められます。

管理職のマネジメント力の向上には、eラーニングシステム(オンライン上で学習できる研修ツール)の活用が効果的です。時間や場所を問わず学べるeラーニングシステムを人事制度に組み込むことで、組織全体のマネジメント水準を底上げできるでしょう。

長時間労働や休日出勤など業務負担を減らす

長時間労働や休日出勤が常態化した職場では、社員の疲弊が蓄積し、離職リスクが高まります。

業務負担を減らすためには、まず各社員の業務量を可視化し、偏りが生じている部分を洗い出すことです。その上で、人員配置の見直しや不要な業務・会議の削減を進めることで、全体的な負担を適切な水準に整えられるでしょう。

労働基準法では法定時間外労働の上限が定められており、違反した場合は罰則の対象にもなります。

法的な観点からも、業務負担の軽減に取り組むことが、社員が長く働き続けられる環境づくりにつながります。

離職防止ツールを活用して早期対応をする

離職防止ツールやHRテックを活用すると、社員の離職兆候を早期に把握し、適切な対応につなげられます。

上司の感覚や日常の観察だけでは、社員の不満や兆候を見落としやすくなります。人事管理の精度を高めるためにも、客観的なデータをもとに動ける仕組みが求められるでしょう。

代表的なツールの種類・把握できる情報・活用できる場面を以下の表にまとめました。

ツールの種類把握できる情報活用できる場面
離職防止ツールエンゲージメントスコア・離職リスクスコア離職リスクが高い社員の早期特定
人事管理システム従業員情報・勤怠・評価履歴業務負担の偏りや評価傾向の把握
タレントマネジメントシステムスキル・面談履歴・キャリア希望キャリア支援や配置転換の判断

HR領域におけるデータ活用を進めることで、人的資源管理の質が高まり、離職防止の精度も向上します。

オンボーディングを改善して不安を取り除く

オンボーディング(入社後の受け入れ・定着支援)を改善すると、新入社員の早期離職を防ぎやすくなります。

受け入れ体制が整っていない職場では、業務内容や人間関係への戸惑いが解消されないまま離職につながるケースも少なくありません。

人材管理の観点から、入社直後の社員のエンゲージメントを高める仕組みを整えることが求められます。

不安を早めに解消するには、研修内容の整備に加えメンター制度の導入が有効です。入社後1ヶ月・3ヶ月の節目に定期面談を設けることで、不安の変化を継続的に把握できます。

人事制度としてオンボーディングを体系化することが、定着率向上の土台となります。

週2日程度のハイブリッド勤務を取り入れる

週2日程度のハイブリッド勤務を取り入れることで、社員の働き方の柔軟性が高まり、離職防止につながります。

出社前提の労働時間管理だけでは、通勤負担や家庭事情との両立に不満を感じる社員が離職を考え始めることがあります。

週2日の出社日を設けることで、対面でのやりとりによるエンゲージメント維持と、リモートによる柔軟な働き方を両立しやすくなるでしょう。

育児や介護との両立を望む社員にとって、労務管理上の選択肢があるだけで会社への信頼感は高まります。HR視点での柔軟な勤務制度の整備が、社員満足度の向上と定着率の改善につながります。

採用活動にRJPを導入する

採用活動にRJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)を導入すると、入社後のミスマッチを減らし、早期離職を防げます。

RJPとは、良い面だけを伝えるのではなく、仕事の大変な点・職場環境・求められる姿勢まで正直に開示する採用手法です。

入社前に現実的な情報を得た候補者は、自分に合う職場かどうか正確に判断できるため、入社後のギャップが生まれにくくなります。

例えば、残業が多い時期があることや、チームへの積極的な関与が求められる点を選考段階で伝えることが有効です。

現実を理解して入社した人材は、定着しやすい傾向にあります。「こんなはずじゃなかった」という感情が早期離職の引き金になることは少なくありません。

RJPで候補者と誠実な信頼関係を築くことが、長期的な定着率向上につながるでしょう。

育児介護休業制度を利用しやすい状態にする

育児介護休業制度は、整備しているだけでは離職防止の効果を発揮しません。

なぜなら、申請しづらい雰囲気や周囲への遠慮から、育児・介護との両立に悩む社員が制度を使えないまま離職を選ぶことがあるからです。

管理職が制度への理解を示さない職場では、利用をためらう社員が増えやすくなります。

社員が安心して利用できる環境を整えるためには、以下の取り組みが有効です。

  • 制度の内容や申請方法を全社員に定期的に周知する
  • 上司や同僚が申請を歓迎する雰囲気をつくる
  • 業務の引き継ぎ体制や代替要員の確保を事前に整えておく

育児介護休業法では、事業主は制度の周知や申請への適切な対応が求められています。

制度を実際に活用できる職場にすることが、社員の定着と信頼感の向上につながるでしょう。

社内コミュニケーションを改善する

社内コミュニケーションを改善することで、社員のエンゲージメントが高まり、離職防止につながります。

部署間の連携が薄い、相談しづらい雰囲気がある、情報が偏っているといった状態は、孤立感や不信感につながりやすくなります。

コミュニケーション改善に向けては、以下のような取り組みが効果的です。

  • 定期的な1on1で管理職と部下が率直に話せる場をつくる
  • 社内チャットや情報共有ルールを整えて連絡の抜け漏れを防ぐ
  • 部署間の交流機会を設けて社内のつながりを深める
  • 相談しやすい窓口や制度を整備する

風通しのよい職場づくりは、離職防止だけでなく組織全体の活性化にもつながるでしょう。

業務をデジタル化して担当者の負担を下げる

業務のデジタル化は担当者の負担を下げることで、社員が働きやすい環境が整うため、離職防止につながります。

紙やExcelでの管理、手作業の集計、属人的な確認業務が多い職場では、特定の担当者に負荷が集中しやすくなります。

労務管理や労働時間管理をHRテックで効率化すると、担当者の疲弊を防ぎ、社員のエンゲージメント向上にもつながるでしょう。

デジタル化を進めると、以下のような改善が期待できます。

  • 勤怠管理の自動化でシフト集計や残業計算の手間を削減する
  • 申請・承認フローを電子化して紙のやりとりをなくす
  • 人事データを一元管理して情報の散在を防ぐ
  • 定型業務を削減し、担当者が本来の業務に集中できる環境をつくる

HR領域のデジタル化を人事制度として整備することが、定着率の改善につながるでしょう。

離職防止に対策しないリスク

離職防止への取り組みを後回しにすると、組織にとって深刻なリスクを招くことになります。

一人の退職をきっかけとした連鎖が広がれば、組織の競争力や職場の文化全体にまで悪影響が幅広く及ぶケースも珍しくはありません。

対策を怠ることで顕在化する、看過してはならない5つのリスクを次から確認していきましょう。

優秀な人材が他社に流出する

優秀な人材の流出は、企業の成長を直接的に止めるリスクがあります。

業績への影響はもちろん、中核人材が抜けると後継者やリーダー候補の育成が滞り、組織の底力が徐々に落ちていきます。

専門スキルや顧客との関係を持つ社員が他社へ移れば、穴を埋めるには長い時間と相応のコストが必要です。

さらに、退職者が競合他社へ転職した場合には、業務知識・経験・人脈ごと流出するリスクも伴います。

中核人材が抜け続けると事業推進力が低下し、企業の競争力は中長期的に鈍化していくでしょう。優秀な人材が長く活躍できる環境を整えることが、持続的な成長の土台となります。

退職をきっかけに連鎖退職が起きる

一人の退職をきっかけに、連鎖退職が起きる可能性はあります。退職者が出ると、残された社員に業務のしわ寄せが集中します。

もともと余裕のない職場では、業務量の増加が一気に負担となり、不公平感やモチベーション低下が起きやすくなるでしょう。

さらに、退職者の退職理由や職場への不満が周囲に広く伝わることで、「自分も同じように感じていた」と気づく社員が出てきます。

共感の連鎖が生まれると退職を考え始める社員がさらに増え、短期間のうちに複数名が離職するという事態にも発展しかねません。

連鎖退職は採用・育成コストを急増させるだけでなく、組織全体の雰囲気をも大きく悪化させます。

一人の退職を個人的な事情だけで片づけずに、職場環境の問題として早期に向き合う姿勢が、連鎖を防ぐ上で大切です。

社内からノウハウや暗黙知が失われる

経験豊富な社員が退職すると、マニュアルには残らない知識や判断力が組織から失われます。業務手順書に書けるものは一部に過ぎません。

顧客対応の勘所やトラブル時の判断基準といった「暗黙知」は、長年の経験から培われるため、引き継ぎ資料だけでは補いきれません。

特にベテラン社員が担っていた業務では、後任者が同じレベルの対応をできるようになるまでに時間がかかります。その間に業務品質や生産性が低下し、顧客からの信頼を損なうリスクも生まれるでしょう。

暗黙知の流出を防ぐためには、在職中から業務の「なぜ」を言語化する習慣をつくることが大切です。

退職が決まってから慌てて引き継ぐのではなく、日頃からナレッジを蓄積できる仕組みを整えることが、組織の持続的な業務品質を守れます。

採用競争力がさらに下がってしまう

離職率が高い状態が続くと、採用競争力まで低下するという負のスパイラルに陥りやすくなります。理由として、現代の求職者は企業を選ぶ際に口コミサイトなどで社員の評判を事前に調べる傾向があるからです。

「人が定着しない」「すぐに辞める人が多い」という口コミが広まると、応募自体をちゅうちょする求職者が増えていきます。応募数が減れば選考の母数が減り、採用に要するコストや時間は膨らんでいきます。

人材紹介会社への依存度が高まれば採用単価も上昇し、採用活動そのものが重い負担になるでしょう。

さらに、採用できたとしても、質より数を優先せざるを得ない状況になると、ミスマッチによる早期離職が再び起きやすくなります。

離職防止への取り組みは、働く環境の改善にとどまらず、企業の採用ブランドを守ることにも直結します。社員が長く働き続けられる職場づくりが、採用競争力の維持にもつながるでしょう。

悪い組織文化が醸成される

離職への対策を放置し続けると、職場全体に「どうせ変わらない」という諦めの空気が広がっていきます。

優秀な人ほど早く辞め、残った社員は疲弊しながらも声を上げられない状態が続くと、主体的に動こうとする意欲が失われていきます。

改善提案をしても無駄だという感覚が定着すると、問題を見て見ぬふりをする組織文化が根づいていくでしょう。文化は一度定着すると、外部からは見えにくく、内部からも変えにくい状態になります。

新しく入社した社員もその空気に染まりやすく、組織全体の活力が長期的に損なわれていきます。

離職への対策は、個々の退職を防ぐだけでなく、健全な組織文化を守ることにもつながるのです。

問題を放置しない姿勢が、社員の信頼と主体性を取り戻す土台になるでしょう。