勤怠管理システムは、従業員の出勤・退勤や労働時間を管理するための重要な仕組みです。
業者が提供している勤怠管理システムを導入すれば、手軽に勤怠管理を行えます。
しかし、コスト削減や自社に合った機能を取り入れたいといった理由から「自作できないだろうか」と考える企業担当者も少なくありません。
勤怠管理システムは自作可能です。Excelやノーコードツール、プログラミング言語などを使うことで独自のシステムを構築できます。
本記事では、勤怠管理システムを自作する際に押さえておきたいポイントや、メリット・デメリットについて、具体的な開発方法までを分かりやすく解説します。
目次
勤怠管理システムを自作することはできる?
勤怠管理システムは、自社開発して運用することが可能です。
多くの企業が業者の提供するクラウドサービスを利用していますが、技術や体制が整っていれば自社開発も現実的な選択肢になります。
自作するとなると作業も大変そうなイメージがあるかもしれません。
しかし、勤怠管理の仕組みは比較的シンプルな構造で成り立っており、基本的には以下の4つの機能があれば運用できます。
- 打刻
- 勤怠データの保存
- 集計
- 管理
ただし、勤怠管理は労働時間を扱うため、法律との関係が深い分野です。
労働基準法などの法令を踏まえた設計が必要になります。
システム開発の知識だけでなく、労務管理に対する充分な理解も重要です。
自作を検討する場合は、メリットとデメリットを十分に比較し、自社の体制に合っているかを確認しましょう。
勤怠管理システムを自作するメリット
勤怠管理システムを自作する最大のメリットは、自社の業務に合わせて自由に設計できることです。
既存のクラウドサービスでは対応しきれない運用にも対応しやすくなり、柔軟性に優れたシステムを構築できます。
クラウドサービスの場合は、さまざまな企業での運用が可能になるよう基本的な機能は揃っています。
すぐに利用を始められるという点では非常に便利ですが、自社に必要な機能が搭載されていないというケースも珍しくありません。
ここからは勤怠管理システムを自作する以下のメリットについて詳しく紹介します。
長期的なランニングコストを抑えられる
勤怠管理システムを自作すると、ランニングコストを抑えられる可能性があります。
業者が提供するクラウドサービスの多くは、従業員1人あたりの月額料金が設定されており、従業員数が増えるほど毎月のコストが大きくなるからです。

一方、自社開発の場合は開発費用こそ必要になりますが、運用後の利用料は基本的に発生しません。サーバー費用や保守費用はかかるものの、従業員の人数が増えてもコストが急増しにくいという特徴を持っています。
ただし、システムの保守や改修にかかる人件費も考慮する必要があります。単純に「無料で使える」と考えるのではなく、総合的なコストを比較することも重要です。
十分な比較検討を行うことで、ランニングコストを抑えられるというメリットを最大限に活かせます。
サービスによっては費用を抑えることもできるため、業者が提供するサービスは「無料で使える勤怠管理システム17選|有料版との違いも解説」を参考に探してみてください。
自社のルールに合わせた柔軟な設計ができる
勤怠管理システムを自作するもう1つのメリットは、自社独自のルールに合わせて機能を設計できる点です。
システムを1から自由に構築できるため、クラウドサービスでは対応できない、細かな部分までルールに合わせて設計できるからです。
勤怠管理は企業によって細かな運用ルールが異なります。以下のような点が主な違いとして挙げられます。
- フレックスタイム制度の有無
- シフト勤務の管理方法
- 休憩時間の計算ルール
- 残業申請のフロー
クラウドサービスの場合は機能が標準化されているため、細かなルールに完全には対応できないケースがほとんどです。
勤怠管理システムを自作する場合は、自社の勤務形態や承認フローに合わせて設計できます。
そのため、自社のルールに合わせた柔軟な設計が可能です。
勤怠管理システムを自作するデメリット
勤怠管理システムの自作にはメリットがある一方で、デメリットも存在します。
- データが改ざんされるといった不正リスクがある
- 法改正がされるたびに早急な対応が必要になる
- 開発が属人化するとノウハウが溜まりにくい
- 実装できる打刻方法に制限がある
- 自作の場合は補助金の対象外になることが多い
デメリットについて把握しておかないと従業員の負担が増えてしまったり、コストが増大してしまう可能性も出てきます。
効率良く勤怠管理システムを運用するためにも、メリットだけでなくデメリットも理解することが大切です。
それでは、具体的にどんなデメリットが考えられるのか、一つひとつを詳しく見ていきましょう。
データが改ざんされるといった不正リスクがある
勤怠管理システムを自作する場合は、データの改ざんや不正といったリスクに注意しましょう。
自作の場合は残業時間や出勤時間などの改ざんを防ぐ仕組みを自分たちで設計し、実装しなければいけないからです。
残業時間を改ざんすることで本来よりも多くの給与を得たり、出勤時間を偽って遅刻をなかったことにするといった不正行為が一例です。
一方、クラウドサービス型の勤怠管理システムでは、ログ管理やアクセス権限の設定など、不正防止の仕組みがあらかじめ整っています。
自作の勤怠管理システムはデータの改ざんによる不正リスクがあることを踏まえ、不正を防ぐ対策が欠かせません。
法改正がされるたびに早急な対応が必要になる
勤怠管理システムを自作した場合、法改正に合わせて速やかに機能の改善・変更が必要になります。
早急な対応をしなければ、改正されたルールに対応できない状態になってしまうからです。
たとえば、時間外労働の上限規制や有給休暇の取得義務などの制度は改正されることがあります。
実際に、2019年には残業時間の上限規制が強化されるという法改正がありました。
残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。(月45時間は、1日当たり2時間程度の残業に相当します。)
引用:厚生労働省「労働時間法制の見直しについて」
クラウドサービスでは、サービス提供者が法改正に合わせてアップデートを行い、すぐに対応をしてくれます。
一方、自作の勤怠管理システムでは自社で対応しなければなりません。
自作の勤怠管理システムを運用する場合は、法改正がされるたびに早急な対応が必要です。
自作の勤怠管理システムを運用する場合は、急な法改正にも速やかに対応する必要があるという点でも、ジョブカン勤怠管理や楽楽勤怠といったシステムが便利ということもあります。
開発が属人化するとノウハウが溜まりにくい
システム開発を特定の担当者に依存すると、属人化が起こりやすくノウハウが溜まりません。
属人化とは、特定の人だけが業務の手順や内容を理解している状態のことです。
一部の従業員に開発や運用、保守を依存してしまうことで、必要な知識・情報などが他の従業員に共有されないことが属人化の主な原因です。
たとえば、開発担当が1人だけだと病欠などで不在となった時、システムにトラブルが起きても誰もメンテナンスを行えないといったリスクが生じます。
このほか、属人化によってノウハウが溜まっていないと、担当者が退職する際の引き継ぎ作業に時間がかかってしまうこともリスクです。
上記のような事例は勤怠管理システムの開発が属人化し、ノウハウが溜まっていないことで生じるトラブルです。
属人化を防ぎ、勤怠管理システムの運用に関するノウハウを残すためにも、設計書や仕様書を作成しましょう。
可能なら複数の担当者でシステムを管理すると属人化を防ぎやすくなります。
実装できる打刻方法に制限がある
自作の勤怠管理システムでは、打刻方法の選択肢が限られる場合があります。
勤怠管理システムを自作すると、開発コストや技術的な制約によって高度な機能は実装が難しいことがあるからです。
そのため、多くの企業では、パソコンやスマートフォンからの打刻などシンプルな方法が一般的となるでしょう。
従業員の数が多く打刻に時間をかけたくない場合は、処理に時間がかからない生体認証やICカードでの打刻が最適です。
しかし、これらの打刻方法を自作で実装するには、専用機器が必要だったり、高度なシステム連携が求められます。
自作するのが難しいため、対応している勤怠管理システムを導入することも選択肢の1つです。
自作の勤怠管理システムは、技術面・コスト面から打刻方法が限定される可能性があります。あらかじめどういった打刻方法を利用するのか、しっかりと検討して決めておくことが大切です。
自社に適した打刻方法を備えたシステムを選びたい場合は、「勤怠管理システム比較27選!企業規模別に人気おすすめサービスを紹介」から打刻方法を比較して選びましょう。
自作の場合は補助金の対象外になることが多い
自作した勤怠管理システムの場合、補助金の対象外となるケースが多いこともデメリットです。
補助金を受け取るには決められた条件を満たし、承認されなければいけません。しかし、自作の勤怠管理システムでは必要な条件を満たすことが難しいからです。
たとえば、企業がITツールを導入する場合に利用できる補助金制度として、IT導入補助金(2026年度からはデジタル化・AI導入補助金に名称変更)があります。
デジタル化・AI導入補助金は、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金です。
引用:デジタル化・AI導入補助金2026「デジタル化・AI導入補助金制度概要」
対象となるITツール(ソフトウェア、サービス等)は事前に事務局の審査を受け、補助金HPに公開(登録)されているものとなります。※1
自作の勤怠管理システムは上記に該当しないため、補助金の対象外となります。
そのため、基本的に自作の勤怠管理システムは、補助金によって支援してもらえません。
補助金を活用して導入したい場合は、「勤怠管理システムの導入に使える補助金一覧!支援ありで労働環境を改善できる」を参考にしてください。
勤怠管理システムを自作する方法
勤怠管理システムを導入する際は、自作するのか外注するのかをはじめ、自作する場合はシステム開発の方法や搭載したい機能と集計するべきデータの決定、法令対応などが求められます。
ここでは、勤怠管理システムを自作する際に、押さえておきたいポイントを流れでご紹介していきます。
自社で作るか外注するかを決める
まずは、システムを自社で開発するか外部に依頼するかを決めます。
開発にかかる手間や時間、必要なコストなどに違いが出るからです。
自社開発の場合、社内のエンジニアが設計と開発を担当します。自社の業務を理解した上で開発できる点がメリットです。また、元々自社で働いている従業員が開発を行うことになるため、新たな人件費が発生しないという点もメリットとなるでしょう。
一方、外注の場合はシステム開発会社に作業を依頼します。専門的な技術を持つ人間に開発を担当してもらえるため、高度なシステムを構築しやすくなるのがメリットです。また、外注することで、社内のエンジニアはコア業務に集中できるというメリットもあります。ただし、外注は開発費用が高くなる傾向があります。
自社開発する場合と外注する場合の違いを押さえ、外注を検討する場合は、「【プロが選ぶ】システム開発会社20選を比較|得意領域別におすすめの会社を選ぼう」で目的に合ったシステム開発会社を見つけましょう。
どうやってシステムを開発するかを決める
次に、どの方法でシステムを開発するかを検討します。
主な方法は次の3つです。
- ノーコード・ローコードツール
- Excel
- プログラミング
1つ目は、ノーコード・ローコードツールの利用です。ノーコードとは、プログラミングを行わずにアプリを作ることができる方法です。ローコードは、少ないプログラムで開発する手法を指します。どちらもプログラミング言語に関する深い知識がなくても扱うことができ、勤怠管理システムの自作に適した方法の1つといえます。
2つ目は、Excelを使った管理です。関数やマクロを使うことで勤怠データを自動計算できます。マクロとは、Excelの操作を自動化する仕組みです。Excelは普段の業務でも活用している企業が多く、基本的な使い方を理解している従業員も多いことが特徴です。ノーコード・ローコードツール以上に扱いやすく、普段から使い慣れたソフトで勤怠管理システムを開発できるのが強みとなります。
3つ目は、プログラミング言語を使った開発です。Webシステムとして開発するケースが多くなります。勤怠管理システムの自作でよく使われるプログラミング言語には以下のようなものが挙げられます。
- Python
- Java
- JavaScript
- PHP
- C#
- Ruby
- HTML
このように専門的な知識が求められるため、プログラミング言語を扱うことができる人材を確保しなければなりません。しかし、ノーコードツール・ローコードツールやExcelと比較して、より高度で便利なシステムを作りやすいというメリットがあります。セキュリティ対策もしやすく、より優れた勤怠管理システムを目指すなら良い方法といえるでしょう。
システムに搭載したい機能を決める
勤怠管理システムの開発では、最初に要件定義を行うことが重要です。
要件定義とは、必要な機能や目的を整理する工程を指します。
要件定義をしておかないと、開発作業の効率が悪くなるだけでなく、無駄な機能を搭載することになってしまいます。
たとえば、勤怠管理システムを作る際には以下のような機能が検討されます。
- 出勤打刻と退勤打刻
- 休暇申請
- 残業申請
- 勤怠データの集計
- 管理者の承認機能
導入目的を明確にすると、勤怠管理システムに必要な機能を整理しやすくなります。
無駄のないシステムを構築するためにも、システムに搭載したい機能を決めておきましょう。
どのようなデータを集計したいか決める
勤怠管理システムでは、どのデータを集計するか決めることも重要なポイントです。
管理に必要なデータが揃っていないと、勤怠管理システムとして十分な効果を発揮しないからです。
集計するデータの例としては以下が挙げられます。
- 総労働時間
- 残業時間
- 深夜労働時間
- 休日労働時間
- 有給休暇の取得日数
これらのデータは給与計算や労務管理に必要です。
ただし、上記はあくまでも一般的な例であり、企業によってどのようなデータを集計したいかは異なります。
業者が提供している勤怠管理システムは勤怠機能とは別に、経費精算機能やシフト管理機能が搭載されていることがあります。
従業員一人ひとりの交通費をデータとして集計しておけば、精算の作業を効率化可能です。
このほかに、シフト管理に関するデータも扱えるようにしておけば、日々のシフト作成が楽になります。
勤怠管理システムで業務を効率化するためにも、集計するべきデータを決めることは大切です。
対応する勤務形態や労働ルールを決める
勤怠管理システムを作る際には、勤務形態や労働ルールを決めることが大切です。
企業ごとに異なるルールによって勤怠管理の方法が変わるからです。
たとえば、給与の計算方法も勤務形態ごとに異なります。
一般的には以下のような勤務形態がありますが、自社のルールに合わせて必要な勤務形態に対応したシステムを作りましょう。
- 固定時間制
- シフト制
- フレックスタイム制
- 変形労働時間制
対応できていないと給与計算が正しく行えないなどのトラブルが起きてしまいます。
システム運用開始後のトラブルを避けるためにも、事前に対応する勤務形態や労働ルールを決めておきましょう。
法令対応をする
勤怠管理システムでは、法律に違反しないためにも法令対応が欠かせません。
対策が不十分で労働基準法などに違反してしまった場合、労働基準監督署から是正勧告を受けたり、刑事罰が科される可能性があるからです。
度重なる指導にもかかわらず是正を行わない場合など重大または悪質な事案について、取調べ などの任意捜査や捜索・差押、逮捕などの強制捜査を行い、検察庁に送検
引用:厚生労働省
悪質と判断された場合は企業名が公表されることもあります。
労働基準法では、労働時間の記録を適切に保存することが求められています。
法令対応をするためには、以下の情報を正しく扱うことが重要です。
- 労働時間の正確な記録
- 残業時間の上限管理
- 有給休暇の管理
- 勤怠データの保存
上記のデータを正しく管理し、万全の法令対応を目指しましょう。